久々に小説更新。
何と今度はレイサナ…だぜ…
えーてる…すまぬ…
7月あたりに書いていたのを発掘したのでサルベージ。
暑さで頭がパーン!してたのを適当にそれなりに見れるものにした感じです。
元々のはアリマリや咲レミやらが乱立した揚句、
レミリア様がとんだカリスマブレイクを起こされていました。
ただテンションはそのままですので珍しくギャグ風味。
ちなみにそそわに投稿しようとしたらNGワードで跳ね返されて投稿できんかった。
未だに理由が分からない…
まぁ見たるわ!って人は続きからどぞ。
カッと音がしそうなほど照りつける太陽。
突き抜けるように晴れ渡った青空。
境内で盛んに泣きたてる蝉の声。
「ああああぁぁぁあああもう何でこんなに暑いのよ!」
絶叫に近い悲鳴をあげたのは博麗霊夢。
楽園の素敵な腋巫女さんである。
恥も外聞もあったものではないほど襟元をだらしなく緩め、
縁側でうだうだして大声で喚いていても素敵な可愛い巫女さんなのである。
しかしその叫びも今を盛りと鳴きたてる蝉の前には空しく掻き消された。
季節は夏。
幻想郷は空前絶後の猛暑に見舞われていた。
「全くこんなに暑いと掃除をする気にもなりゃしない。これが秋まで続くかと思うとうんざりするわ」
ぶつぶつと愚痴りながら傍らの皿を引き寄せると、
やや慎みにかけた動作で赤く熟れた西瓜を引っ掴み齧り付いた。
噛み付いた途端しゃくしゃくと瑞々しい音が響き、
果肉から惜しげもなく溢れ出した甘い果汁が口いっぱいに広がった。
実に美味なり。
これこそ夏の醍醐味である。
霊夢は思わず猫の如く満足気に目を細めた。
「…喜んで頂けたようで何よりです」
霊夢のそんな様子を些か冷めた目で見つめるのは東風谷早苗。
幻想郷におけるもう一人の素敵な腋巫女さんである。
その服装は恥も外聞も裸足で逃げ出すほどだらだらの霊夢と異なり乱れは一切見られない。
霊夢によって振る舞われた素っ気無い湯呑に入った麦茶を飲む動作も実に上品。
まさに神に仕えるに相応しい品格、巫女の品格というものである。
さて、ところで何故東風谷早苗が此処博麗神社にいるのか。
実は現在霊夢が齧り付いている西瓜は元々守矢の神々に奉納されたものであり、
その数があまりに多かったため神奈子の「お隣さんにも分けようじゃないか」の鶴の一声で、
早苗が西瓜をお裾分けにやって来たというわけである。
そんな厚意と博愛の使者を霊夢はじっとりと睨めつけた。
「…何であんたはそんな涼しげな顔してるのかしら。不平等だわ」
「さぁ…霊夢さんは雑念が多すぎるんじゃないですか?お賽銭お賽銭って」
恨めしげな様子の霊夢に早苗はしれっと答えを返した。
いや、勿論早苗だって暑いものは暑い。
しかし騒いだところでこの暑さが和らぐ訳では無い、というか寧ろ更に暑くなる。
ならばこうして大人しく冷たい麦茶を啜っている方が利口というもの、
と言うのが早苗の幻想郷快適猛暑生活のモットーである。
まぁわざと当てこするような言い方をしたのは何というかあれだ、
同じ巫女としての対抗意識というか、
なんというか、こう、ちょっとした可愛い女の子の悪戯心というか。
でもちょっと言い過ぎちゃったかな、と早苗がほんの少し反省したその時、
傍らから何やら不穏な笑い声が聞こえてきた。
勿論境内には早苗と霊夢しかいないという状況であるため、
その不気味な声を漏らしているのは自然と霊夢ということになる。
「ふふふ…」
「…え、ちょっと、何ですかその目は?その何か企んでるような目は?」
じりじりと早苗ににじり寄る霊夢の目は妙にぎらついていた。
そう、それは草食獣を追い詰める肉食獣の目であった。
早苗は幼いころ外の世界のテレビで見た動物番組を一瞬頭の片隅で思い出す。
『ライオンは獲物にゆっくりと忍び寄り、十分近付いてから飛びかかります…』
じゅうぶんちかづいてからとびかかる…
十分近付いて飛びかかる…!?
本能がかきならす警鐘に思わず腰をあげ距離を取ろうとした早苗だったが、
行動を起こしたのは霊夢がほうが一瞬早かった。
早苗の細い手首を握ると手前に引きこみ、
腰を浮かした不安定な姿勢を逆に利用して縁側の板の上に押し倒した。
さらに素早く早苗の上にのしかかり暴れる足を押さえる。
少し遅れて頭が縁側の板へと落ちるとごつんっと音がして、しばし早苗は悶絶した。
足には体重をかけてのしかかられ、
腕はまとめてぎゅうぎゅうと押さえつけられ、
哀れ、早苗は囚われの身である。
「さーぁ、あんたの秘密暴かせてもらうわよ!」
「何のことですか!?」
秘密とはこれ如何に。
目を白黒させる早苗に構わず霊夢は腕を押さえつけていない片手をおもむろに
――早苗の服の中に突っ込んだ。
「ひゃぁ!」
しかも何やら霊夢の手が不穏な動きをしているような…いやまさかね!
そんなことあるわけがありませんよね…!
早苗は慌てて暴れるが霊夢の拘束は想像以上に堅牢であった。
手も足も出ないとはまさにこのこと。
羞恥と混乱で思わず目が潤む。
この十数年、風祝として恥ずかしくないように生きてきた早苗であるが、
こんな不条理な扱いは初めてである。
屈辱である。
「ななな…何するんですか!」
「むー…涼しそうにしてるから何か秘密があるかと思ったんだけど…」
「無いですよ!そんなの!」
「おかしいなぁ…」
「ふぁ…ちょ、ちょっと…ど、何処触ってるんですか!」
「良いじゃないの減るもんじゃないし…お、あんた結構着痩せするタイプなのね」
「減ります!すごく減ります!私のプライドとか羞恥心とか色々!」
そのまま二人は魔理沙が訪れ「何してるんだ…?」と呆れた様子で尋ねられるまで
しばし縁側で戯れることになった。
******
神社に帰る頃には空はもう青から朱へ、そして紫へと変わりつつあった。
「只今戻りましたー…」
早苗がいささかぐったりして玄関をくぐり部屋を覗き込むと、
守矢の神々は囲碁に興じている最中だった。
近づいて盤面を覗き込んで見ると諏訪子がやや劣勢か。
いや、右辺の神奈子の地もまだしっかりしてないので互角かもしれない。
なかなか白熱しそうな対局である。
「あ、早苗おかえりー!随分遅かったねー」
「やぁおかえり。お隣さんの様子はどうだったかい?」
まず顔をあげてにっこり微笑んだのは諏訪子だった。
すぐ後に神奈子も振り向き笑顔で早苗を迎える。
碁盤はすぐさま部屋の隅に追いやられた。
彼女らの可愛い風祝の帰還の前には囲碁の対局など塵に等しい。
と言いつつも碁石が崩れないよう移動しているあたり、この神抜け目がない。
「そうですね」
早苗はほんの少し首を傾げ、
「…あんなに誰も賽銭を入れていかない神社初めて見ました」
正直に告げると神奈子と諏訪子はしばしぽかんとした後、
けらけらと笑い転げた。
そう悲しいかな、
今日も博麗神社のお賽銭箱にお賽銭の投げ込まれた様子はなかった。
しかし客がいないわけではない。
それどころか客は多すぎるほどやってくるのだ。
博麗神社には魔法使いの後にも魔女やら天狗やら鬼やら河童やらが次々に訪れた。
客人によって西瓜はすっかりなくなり、
その代りに誰かが持ってきたのであろう酒や肴が増えていく。
まぁそうなれば宴会へなだれ込むのというがこの幻想郷では自然な成り行きらしい。
(しかしこれだけ人が集まるのに誰も賽銭を入れないとは…あ、いや人じゃないか)
妖怪ならしょうがない。うん。
妖怪がお賽銭入れて神様に願いごとっていうのも変だし。
そう結論付けつつ妖怪たちと騒ぐ霊夢をぼんやりと眺めていた早苗は、
陽が随分西に傾いていることに気づいた。
もうそろそろ帰らなくては神奈子様や諏訪子様に心配をかけてしまう。
お使いはもう済んだのだからもう帰っても良いはずだ。
「あの、霊夢さん。私そろそろお暇させて頂きます」
「え?もう帰るの?折角だから一杯飲んでいきなさいよ」
大雑把に湯呑を積んだお盆を運んでいた霊夢は声をかけられると目を丸くして答えた。
先程まで早苗が麦茶を飲んでいた素っ気無い湯呑は恐らくこれからの酒宴のぐい呑み代わりになるのだろう。
待ちきれなかった輩が先に酒をあけてしまったのか、
日本酒特有の甘い香りが夏特有の湿気た空気に混ざって夕闇の迫る境内に漂っていた。
夕暮れの境内に人外の者達がさわさわと宴の前の雰囲気に浮足立ちざわめく気配は一種幻想的だった。
「これからが楽しいのにさっさと帰るなんて付き合いが悪いわね」
「…そんなことはないですよ」
付き合いが悪いのはむしろ霊夢のほうだ。
他の客とばかりふざけていて早苗のことなど途中からほったらかしだった。
初めのうちはあんなに鬱陶しいくらいからんできたくせに。
せっかく遊びに来たのに。
話したいこともたあったのに。
そんな不満が咽喉から滑り出る寸前。
(…?)
そんな不満を抱いていた自分に驚いた。
霊夢が他の客を相手にしないなんできないこともわかっている。
自分だけを相手にするなんて無理なことも理解している。
これではまるで子供の我が儘だ。
早苗が困惑して言葉を失っていると霊夢は何を思ったのか、
少し眉尻を下げて少しふっと息を吐いた。
「まぁいいわ。気が向いたらまた遊びに来なさいよ」
楽しみに待ってるわ、と霊夢は微笑んだ。
それは本当に優しい笑みで。
夕陽の橙色の光が頬を柔らかく照らす。
細められた栗色の瞳。長いまつ毛。
密やかな宴の前の静けさ。
空気に漂う酒の香りがねっとりと少し重かった。
「…ちょっと早苗?」
はっと我に返って、
霊夢が怪訝な顔で目の前へ覗き込んで来て、
―― 一気に顔が赤らむのがわかった。
顔に全身の血が集まったかのように熱くなる。
心臓が馬鹿みたいに暴れる。
思わず霊夢から顔を背けて踵を返した。
「…考えておきます!」
…結局早苗は逃げるように神社をあとにしたのだった。
もうめちゃくちゃだ。
幻想郷に来てから早苗が信じていた「常識」はひどく頼りないものになって、
自分が思っていた「東風谷早苗」も揺らいでしまった。
特にあのだらしない巫女の前ではそれがひどくなる。
私の知っている「東風谷早苗」はこんなではなかった!
でも本当に?以前の自分は…外の世界で暮らしていた私はどんなだった?
この幻想郷で東風谷早苗はどうしたらいいのだろう?
何もかもがめちゃめちゃだ。
ああぐらぐらする。
あんなに暑いところで珍しく騒いだせいだろうか。
でもこのぐらぐらが悪い気がしないなんてやっぱり暑さにあたったんだろうか…
「ふーん。で、早苗はまた博麗神社に行くつもりなの?」
と今まで話を大人しく聞いていた諏訪子が突然口を開いた。
早苗はそれに少々面食らいながらも少し考え込み、正直に答えた。
「…そうですね。気が向いたらまた行くことはあるかもしれませんね」
「へー…」
「ふーん…」
にやにや。
「…何ですか?」
諏訪子は何やら含みのある笑みを浮かべている。
視線を移すと神奈子も似たような笑みを浮かべていた。
「いやぁ何でも?」
「早苗ももうそんなお年頃なのかねぇ」
「人間はあっという間に大きくなっちゃうからねぇ」
「感慨深いもんだよねぇ」
「あついねぇ」
「おぉあついあつい」
にやにやにやにや。
「一体何なんですか!?」
早苗の叫びもまた今を盛りと鳴きたてる蝉の声の中へ紛れてしまう。
――かくして早苗の暑い夏はまだまだ長い。
そう、夏はまだ始まったばかりである。
(2010/09/23 投稿)
(2011/06/11 修正)
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まぁ書いた時期が書いた時期なので季節的にずれてる感も否めないですが、
今年の酷暑に思いを馳せつつのレイサナです。
早苗さんはプライドが高い、優等生タイプのイメージですが、
色々と無理をしていそうで心配。
だから霊夢さんがその殻をはぎ取ってアッー!してくれればいいと思うよ。